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短編小説。
まずは,2007年に書いたもの。
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出産の為,病院に入った。
心配性&世話好きの夫が,4人部屋の片隅を自室同様に整えてゆく様子を見つめ,
溜め息をついて横になりイヤホンを付けて音楽で時間をつぶす。
夜,しつこい「大丈夫か」の声を押しのけ夫を帰し,即,装飾を撤去。
壁に貼られていたカレンダーの二十丸を見て,はぁ,また溜め息・・・。
予定日が近付くほどに気分が沈む。
産む事,いや,子育てが不安で仕方ないのだ。
勉強こそが大事。そんな考えで凝り固まった親に厳しく育てられ,
叩かれた事はあれど,愛された記憶は無く,引きこもりのまま中学を過ごし,
卒業後,すぐに家を離れ,以来,帰っていない。
夜間高校を出て後,バイト先で出会った彼と同棲を始めて一年,妊娠発覚。
報告を大喜びで受け止めてくれた感情をよそに,私は複雑な気分。
愛情をかけて育てられる?怒りすぎたりしない?ちゃんとした親になれる?
終わらぬ自問自答を繰り返して今日まで来てしまった。
消灯のアナウンス。目を閉じる。眠れない。体を起こす。気分を変えよう。
病室を出て院内を歩いていると,良い匂いがする。
廊下の先に明るい部屋発見。
そこは,挽き立てのコーヒーが売り物の自動販売機が主のように鎮座している休憩所だっ た。
見回すと隅に車椅子に座って本を読んでいる子供が。
こんな時間に一人?
夢中で活字を追う姿を気にしつつ,ボタンを押す。
落ち着く湯気を立ち上らせたカップを手に部屋に戻るも,やっぱり気になる。
一人で何かあったら大変。
沸き起こる心配に急かされ戻り,声をかけると顔を上げて笑顔で返事をくれた。
八歳,心臓が悪く入院中,母は事故で亡くなり,父親と二人暮らし。
父の面会は仕事で夜遅く,病室に来る前に必ずコーヒーを買ってくる為,いつもここで待っていると言う。
悲しい身の上を淡々と聞かされ言葉が出てこず,黙ってしまった自分を落ち着かせ,
「コーヒーは好き?」「うん,匂いが!」「何を読んでるの?」
見せてくれた本は小さい頃に読んだ探偵シリーズだった。
「これ知ってる,犯人はねぇ」「あー言わないで!」
全作読破した自慢を大人げなく披露していると「おばちゃん,赤ちゃん産むんだね」
「そう。触ってもいいよ」緊張気味に伸びた手をお腹に導く。
と,小さな体が車椅子を離れ,私に抱きついた。
本能的にそっと抱き締める。
命の温もりが心地良い。
あぁ,生きているってあたたかいんだね。
体を満たす感動を現実に引き戻す「お父さん!」の声。
振り向いた先に,大柄の男性がハツラツとした歩みでやって来る。
「待ったか?」「全然!」
父親と挨拶し,二人で帰ってゆく後ろ姿に,ずっと元気でと心で声をかけて見送る。
自動販売機の運転音が響く,無人の廊下にしばらく立ち尽くす。
「よし」小さく出した声を合図に,踵から力強く足を降ろし,
親になる決意を踏みしめて歩き出す。
愛して育てよう。
退院したら,夫と,この子を連れて親に会いに行こう。
<了> 2009年11月27日 17時57分

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