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「The Worst Trip, the Best Summer Experience」

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4時間の遅延の末に予定の便は欠航し、7時間後に離陸した代替便では当然バスの最終便に間に合わず空港で足止め、挙句にスーツケースは紛失し、遂には付近のホテルが全て満室で空港ビルで野宿をさせられる---。海外旅行に際して考えうる全ての不幸を伴って、私が参加したDartmouth College(米国New Hampshire州)でのSummer Institute of Informed Patient Choiceは幕を開けました。

6月25日から始まった8日間のカリキュラムでの主要テーマは「(医療者と患者との)shared decision making(SDM)」とそれを可能にするための「inter-professional education」。全世界的潮流である「患者中心の医療」の骨格となるSDMを学際的枠組みで捉え、これを実現するために現場のプロたちがどう連携すべきかという応用的研究成果を中心に議論していくという極めて野心的な取り組みです。個人の決定を中心に据えた認知科学的意思決定研究と異なり、複数で多様なプレーヤーが集団力学の中で動くSDMはサイエンスの対象とするのにも骨が折れます。しかし、現場の勘だけに頼らず、医療を改革するために必要な研究と実践とを結ぶスキームとして80年代から練られて来た学際領域がこのSDMです。いまなお枠組み自体が進化の真っただ中にあるこのエリアのビッグネーム達が漏れなくfacultyを占めており、参加者も「生徒」としてではなく、「一緒にこの学問を進化させるための共同研究者」として議論に参加することが望まれていました。

世界各国から70名の医師、研究者、研修医、患者団体トップらが参加しており、そのうちの10%程度が私と同じように博士課程後期の学生もしくは研修医でした。アジアからの参加は私ただ一人。米国、カナダ、ドイツ、オランダからの参加者が大半で、かの地での医療と認知・行動科学との距離の近さを図らずも示していました。日本では今ようやくSDMの萌芽が見られる段階ですので、5年ほど早くトレンドに触れたという感触でした。Facultyメンバーが現在のSDMの取り組みの最前線を報告し、それを受けて医療者が患者の意思決定支援に関する現場での問題点を指摘し、可能な研究の示唆を構成概念の操作的定義を含めて研究者が提案し、それを別の研究者が建設的に批判する…というサイクルが回り(常時、ではないですが)、極めて濃密な時間が朝9時から夕方5時まで続きました。土日も関係ないという、米国にあるまじきスケジュールで。

心理学の専門研究者も4名ほど参加しており、その全員と貴重な意見交換ができました。「認知系心理学 + 医療意思決定」という特化したエリアですので、バックグラウンドに差異があれども方向性が重なるため大いに話が弾み、ビールやコーヒー片手に、今後のSDMへの各自の貢献の可能性を議論しました。僅か8日間でしたが、既に「結果」も出始めています。ニューヨーク大のドイツ人社会心理学者は私との共同研究プランを含めた助成金申請書を既に母国に提出し、ドイツのハイデルベルグ大から参加した臨床心理学者はマックスプランク研究所のABCグループと医療系意思決定の研究を模索しており、彼らと情報交換することになりました。シンガポール出身の医師で英国シェフィールド大で博士課程在学中の研究者は、私の研究エリア(医療におけるリスク認知)に関して比較文化的な共同研究を打診してきました。プログラムが終わり別れても、ここで培った人脈はメールで繋がり続け将来に続く…そんな手ごたえをいま感じています

最悪のイベントで幕を明けた今回のsummer instituteへの参加は、最高の学びと出会いを私にもたらして幕を閉じました。実は帰りの飛行機でもスーツケースと一緒に成田に到着しなかったのですが、それはまたの機会にでも。消化し切れないほどの収穫があったこのプログラムには、来年もまた懲りずに応募したいと考えています。

(上記は、学術誌「認知科学」の「会議報告」エッセイ欄に投稿するための要約です。もっと詳細なものは後日に掲載されると思います。)

2008年07月13日 14時20分

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