HOME- > 病気と暮らし
- > あの著者は現在~「あとがき」の続き~
- > 『へこんでも』(新潮社 2002/04)
『へこんでも』(新潮社 2002/04)
多和田 奈津子さん(甲状腺がん/悪性リンパ腫)
私は16歳で甲状腺がんの摘出手術を受け、25歳で右副鼻腔原発のNK/T細胞性悪性リンパ腫になり、放射線と化学療法による治療を行いました。
このがんという病を私よりも先に体験した人はどのように乗り越えたのだろう。知りたい。でも、その情報をどこで得ればいいのか、私にはわかりませんでした。さまざまな悩みの解決策は私自身や、家族、友人が時間を費やし考え、案を出しました。それはときに孤独な作業でした。
退院後は、再発の恐怖から治療中よりも苦しい精神状態になりました。主治医に診断していただきながら生活を送りますが、再発を防ぐ手立てはありません。そのつらさを母に相談すると本人以上にへなへなとしおれてしまいます。幼馴染に気持ちを話すにも限界があり、本当の悩みは誰にも打ち明けられない、そう思ったとき編集の仕事をしている父の友人に会いました。気持ちを聞き出すことが上手なので、私は心の奥底にしまっていたことまでたくさんの話をしました。
すると、「このことを本にまとめたらいい、ひとつひとつ文章を書いていくうちに時が経ち、元気になれるから」と言われました。闘病記を書いた最初のきっかけは、再発の恐怖から逃れられるなら何でもしようというもので、高い志などなかったのです。
いざ作業を始めてみると、再発の恐怖から逃れられるどころか、追体験をすることになり、何度も筆が途切れました。ところが私はなぜか書くことをやめませんでした。それは、未来の読者に向けたメッセージが芽生えたからです。
病気がちだった私ですら、いざ「がん」と言われたら慌てたのですから、現在元気な同世代はどれほど戸惑うことでしょう。彼らに闘病の際には必要な準備があることを心の片隅に留めてもらいたいと思いました。自分に起こったことのように感じてもらうには、当事者が書く必要があると思いました。
一方、いま、闘病している人が読むと、リアルすぎて治療をやめてしまわないか、ためらいました。しかし実際には、「この作者が生きているなら読みたい」と、たくさんの方に手にとっていただいたのです。
リンパ腫と診断されてから早十年が経ちました。おかげさまで生きてきた中で一番体力があるようです。事務職員として平日勤務する傍ら、患者経験を生かした執筆や講演活動をしています。その他に、患者会の運営に携わり、忙しくも充実した日々を送っています。
その一方で、涙腺狭窄、唾液の減少、歯肉の衰え、嗅覚障害、卵巣機能の低下等々、治療の副作用と仲良く暮らさなくてはなりません。その他経済的社会的な悩み、新しく出会う人にどのタイミングでこの病の話をしたらよいかなど・・・長く生きるために起こる問題はまだまだ山積みなのです。
ひとりで考えていると、なかなか出ない答えも、みんなに打ち明けているうちに心の整理ができ、思わぬ視点や情報をいただくチャンスにつながります。この場が、たったひとりでいた人がホッとできる有益な情報交換の場になり、支え合えることを心から願います。


















