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『死をおそれないで生きる』(いのちのことば社 2007/07)
細井 順さん(腎がん)
『がんになったホスピス医の人生論ノート』を上梓してから1年半が過ぎた。手術後4年半が経過したが、今日のところは、まだ再発の診断は下っていないことをまず報告しておこう。
拙著は私の勤めるホスピスにも置かれている。入院中の患者さんや家族が目を留め、読んでくださる。主治医ががんに罹ったということを知り、温かい眼差しで私を見ていてくれるように思う。「何度も読み返した」、「勇気をもらった」、「がんばって生きて行こうと思う」というご意見もたくさんいただくが、一方で、「すーっと力が抜けた」、「張りつめていた気持ちがとても楽になった」と、感想を話してくれる人たちのほうがずっと多い。私の言いたいことは、どちらかというと後者のほうであろう。外科医としてがんの治療に長年携わってきた、いわば「がんに精通した医師」ががんになるというのは、最もドジな話である。しかし、医者でもがんになるのだからという一種の慰めにもなっているようだ。
診断から治療に至る間の心の揺れを述べたことで、患者さんたちが親しみを込めて私を眺めているように感じている。それは、患者さん・家族が私にこころを開いてくれているからであろう。
日々、患者さんと接するときにコミュニケーションが楽にできるようになった。気負いがなくなった。素直な気持ちで接することができる。「お互いさま」という感覚で傍らにいることができるようになり、患者さんとの間に垣根を感じることが少なくなった。「ケア」ということに対する考え方が変わってきたように思う。自分ががん患者でなかったときには、自分が主体で、自分が必要と思うケアをしていたが、がん患者となってからは患者が求めるケアを心がけるようになった。決して自分のパフォーマンスをするわけではない。患者さんの小さなパフォーマンスに気付くように努めている。このようにしてこそ、患者さんを生かすケアができるように思えてきた。
あとがきには、「実母にはまだ私のがんを伝えていない」と書いた。母はこの本を読み、「そうだったの、あなたの話すことが数年前からか変わってきたので、何かあったのだろうかと思っていました」と話してくれた。さらに、「すっかり騙されてしまったけれど、孫たちはそんな素振りを一度も見せたことはなく、ある意味でとても安心したよ」とも付け加えてくれた。母は80歳を越え、いまも一人暮らしを続けているが、実に見事に受け止めてくれた。時々、私たち一家と食事を共にするがこの生活スタイルは病前から変わらないで続いている。そして、母は日曜日毎にキリスト教会での礼拝に50年間通い続けている。
人生にはそれぞれに歩むべく定められた道があり、さまざまなかたちで死を学ぶことが確かな道しるべになることを教わった。



















