『からだに寄りそう』(春秋社 2003/04)

波多江 伸子さん(甲状腺がん)

33歳で甲状腺がんの手術をし、53歳のとき残った甲状腺に局所再発しました。再発するのに20年もかかるなんて、甲状腺乳頭がんって、ずいぶんのんびりしたがんですね。もう引っ越したと思っていた古い知り合いにばったり出会ったような、ちょっと懐かしい不思議な気持ちでした。私は糖尿病も持っていますが、どちらかといえば、甲状腺がんのほうがおとなしくて扱いやすいので好きです。糖尿病は、毎日の食事や運動に気をつかう上に、ちょっと手を抜くと予告もなしに合併症を起こしたりしてけっこう油断ならない相手。

とはいえ、私とて、はじめから甲状腺がんに親しみを覚えていたわけではありません。最初の手術のときは子供を産んだ直後ということもあって、ひどいうつ状態になり、毎日泣き暮らしていました。手術の後遺症の反回神経マヒで声が出にくくなり、そのストレスで突発難聴になり、片耳の聴力も失いました。やがて糖尿病も発症し、まだ若いのになぜ私だけが次々と病魔に取りつかれるのかとわが身の不運を嘆く毎日でした。でも、甲状腺ホルモン剤と血糖降下剤を飲み続け、毎月病院で甲状腺機能と血糖値を測定しているうちに甲状腺がんと糖尿病をよく知るようになり、いつの間にか「病魔」が馴染み深い人生の「相棒」になりました。拙著『からだに寄りそう~がんと暮す日々』(春秋社、2003年)は、甲状腺がん再発時の記録を中心に、私の、20年に及ぶがんと糖尿病との付き合いを描いたドキュメントです。甲状腺疾患の専門病院に入院し、主治医にインタビューしながら、初めから1冊の本を書くつもりで資料を集めました。

からだに寄りそう―がんと暮らす日々
  • 『からだに寄りそう』
  • 波多江 伸子 著
  • 出版社: 春秋社
  • 発売日: 2003/04
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この本を出版してから(局所再発してから)7年経ち、私は無事、還暦を迎えました。その後、甲状腺がんの再々発はありませんが、糖尿病が進んで、いまでは、毎食前と寝る前の1日4回、インスリンの自己注射をしています。これがなかなかつらくて、先行きを考えるとうつ状態になってしまいます。年と共に精神の力が弱くなり、病気と共存して生きることをわずらわしく感じます。若い頃のような勇猛果敢な闘病意欲は薄れ、病気を手なづける不断の努力も面倒になりました。

がんを体験すれば、それで一生分の病気を済ませたような気になりますが、ほかの病気を免れるわけではありません。がんが不治の病ではなく制御可能な慢性疾患に近くなったいま、長生きすればするほど、がんだけで人生を終えることがむずかしくなりました。がんは治ったけれど認知症と骨粗鬆症になったとか、がんと脳梗塞と糖尿病と白内障を同時に患っているとか、人生の後半レースは多彩多様な病気との道連れです。33歳から始まった患者ライフも27年目。これからの私のテーマは「老いと病気と折り合いよく過ごすために」というものになりそうです。

波多江 伸子 さん

波多江 伸子(はたえ・のぶこ)

作家・倫理学研究者。
1948年、福岡市生まれの福岡市育ち。生粋の博多っ子。九州大学大学院卒業。
甲状腺がんと糖尿病の患者歴27年を生かし、患者の立場での医療倫理を、大学や看護専門学校で教えている。
実母の在宅ホスピスの記録『モルヒネはシャーベットで~家で看とった死』(海鳥社、2005)、肺がんの仲間をホスピスで看取った記録『さようならを言うための時間~みんなで支えた彼の「選択」』(木星舎、2007)などターミナルケアに関する著書が多い。
2008年5月の博多どんたくでは、がん患者と医療者100名とで<がん・バッテン・元気隊>を結成してどんたくパレードに参加し、沿道の観客と地元メディアの注目を集めた。

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