患者と医者をつなげるということ

辻本 好子さん
NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長

「賢い患者になりましょう」を合言葉に、18年間にも渡って活動を続けてきた、ささえあい医療人権センターCOML理事長の辻本さん。2008年には、舛添厚生労働大臣が設置した『安心と希望の医療確保ビジョン』に患者の立場を代表するメンバーとして参加するなど、還暦を迎え、ますます活躍の場を広げている。そんな辻本さんにお話を伺った。

患者に芽生えた権利意識とコスト意識

COMLで電話相談を始めた当初、愚痴さえ聞いてくれればそれでよいという方がほとんどでした。混乱する気持ちを整理したいという思いや、どうやってお医者さんに気持ちを伝えたらよいのかという言葉探しのサポートです。
ある高齢の女性の患者さんが、「お医者さんの前に座ったら、言葉の通じない外国人の前に座っているような緊張感を覚える」とおっしゃったことがあるのですが、まさに言い得て妙。それが18年前の患者さんの素朴な思いでした。
それが、次第に患者の権利意識が高まってくると、自分ができることはなんだろうというように変わっていきました。医者は神様ではないと気付いた患者たち。自分たちが患者になったときどうすべきかということを他人事ではなく考え始めたんですね。そうした時代の流れの中で、歩み寄ったというわけではなく、ある意味不可抗力も含めて、患者と医者の距離は縮まったように思います。そしていまは、私はこうしたいのにそれを医療現場が受け止めてくれないという不満に変わってきました。この18年で患者の権利意識はうなぎのぼりです。
また、もう一つは、コスト意識。経済はひっ迫しているのに、医療費は高騰。支払っている分に見合うだけの安心と納得が得られない。そこから不満が発生しています。患者の権利意識とコスト意識の高まりには著しいものがあります。

賢く妥協し、賢く諦め、賢く選択――それが、「賢い患者」になるということ

辻本 好子 さん 近年、賢い患者ということが一般的にもよく言われるようになってきましたが、私たちが言い続けてきた「賢い患者」ということはなかなか正しく受け止めてもらってはいません。
医療に100点満点はありえないのに、100点満点を求める。要求だけする、権利だけを主張する患者は、賢い患者とは言えません。権利はきちんと自覚している、けれども義務も自覚している。きちんと義務も引き受けられる。「賢く妥協し、賢く諦め、賢く選択」できる主体、それが賢い患者だと考えます。ただし、賢く妥協するためには、説明を求める必要が出てきます。情報がなければ妥協もできないわけです。情報を求める中で、自分が抱いていた過大な期待が妥当ではないという諦めが必要になってくる。いまは選択肢が多い時代で迷いはあるけれども、最終的にあなたはどうしますかと問われたときに、選べるのは一つ。妥協と諦めを踏まえた上で、賢く選択というプロセスを経ることができれば、医療者と共に歩める「賢い患者」になれるはずです。だからコミュニケーションが大事だということになってきます。

患者になってわかる、たったひとことを発するための勇気

一方で、自身が実際に乳がんになり、このプロセスの実践にはすごく勇気がいるということも実感しました。
たとえば、私はセンチネルリンパ節生検をしたかったのですが、私が最初に乳がんだと判明した病院ではやっていませんでした。「この病院ではセンチネルリンパ節生検ができますか」「できません」「それでは、それを求めたいので、別の病院への紹介状を書いていただけますか」。このやり取りがしたいわけです。黙って移るのではなく、なぜその病院での手術を拒否して、次の病院へ移りたいのかきちんと自分の意思を伝えたいと思いました。
しかしながら、センチネルリンパ節生検ができるかというひとことを切り出すのに、どれだけの勇気が必要か。最初のひとことを発するのにどれだけ躊躇をするか、身を持って実感しました。医療に関わってきた私ですらそうだったのですから、いままで医療とはまるで関係のない、情報もない患者がそう簡単に医者に言えることではないと痛感しましたね。それまで俯瞰して「言いなさいよ」と他人の背中を押していたのに、いざ自分が言う立場になってみると、なんて難しいのだろうと、賢くなるというのは簡単なことではないと身に沁みました。

患者の気持ちは、「100 - 1 = 0」。医療者のささいなひとことが、すべてをゼロに。

辻本 好子 さん

患者と医療者の関係は、第一ボタンを掛け違うとあとは全部ずれてしまう。残念ながら、患者の気持ちは「100 - 1 = 0」なんです。医療者にしてみれば悪気はないのだけれど、発してしまったひとことで、マイナス1という感情が湧き上がってしまうと、それまで積み上げてきたものが、全部ゼロになってしまう。かけがえのない自分の人生において、向き合わなければならない命に関するイベントですから、当然といえば当然ですよね。そのマイナス1は患者側が感情レベルで感じるものです。患者にしてみれば、医療者の言葉は理解はできても納得のいかないことも少なくありません。
しかし、感情の中で折り合いをつけることも「賢い患者」には求められます。患者と医療者がもう半歩ずつ歩み寄って、意思を持って、近しい新しい人間関係ができるような社会システムづくりが必要ですし、またこれからもそのサポートを行なっていきたいですね。

COMLの、辻本さんの、次なる挑戦――自発的な地域活動を目指して

COMLでは、病院を見学・受診して患者の視点で意見を届ける‘病院探検隊’という活動を行なっています。
いままで病院から患者への情報提供は一方通行でした。まさにパターナリズムの姿勢そのものだと思っているのですが、患者側のニーズよりも先に先によいことをやってあげているのだという意識ですね。そうではなく、患者の声を聴いて、それに応えて、医療現場における患者への配慮があって、初めて患者の目線を意識した医療を提供していただけるのではないか。そのためにも苦言を呈する病院応援団のようなものが、各病院にあったらよいのではと考えています。
この前も舛添厚生労働大臣に「COMLの病院探検隊を呼ぶのではなくて、地域の中からそうした活動が生まれることによって、地域の人が地域の医療を守るんだという意識を持てるよう、国レベルでサポートしてほしい」ということをお伝えして、『安心と希望の医療確保ビジョン』の中にもしっかりと書いていただきました。最初は病院が主導するかたちから始まってもよいと思いますが、いずれは地域住民の主体性に任せられるような仕組みづくりです。 舛添厚生労働大臣に声をかけていただいたときには本当に驚きましたが、政策に関わることは、COMLがいままでやってきたことを地域活動に広げていく大きなチャンス。正直戸惑いもありましたが、チャレンジすることにしました。

最近、地域での自発的な意識の芽生えが感じられます。柏原のお母さんたち(県立柏原病院の小児科を守る会)、あの活動が生まれたときは涙が出るくらい嬉しかったですね。始めは小児科医がいなくなるというので署名運動をして、県庁へ持って行く。でも、県からは、お金がありません、医者もいません、仕方がありませんと突き放される。県に依存していても何も変わらないというので、自分たちにできることは何かを考える。そこで、まずはコンビニ受診を私たち自身で自粛しよう、そのためには子どもの病状を冷静に判断できる情報を集めよう、であればお医者さんの力を借りようというように、自分たちにできることはなんだろうという意識の芽生えの中から自然発生的に生まれてきた活動です。ようやくそういう時代がきたんだと全身ぞぞっと鳥肌が立つほど嬉しかった。彼女たちはCOMLを知っていたわけではない。時代の中でCOMLの活動を真似しなくっても活動する次の世代が生まれてきています。ちょっと火をつければ、ぼっと燃えるような土台ができてきた。だからこそ、いまだと。それがビジョンであり、私たちの次の仕事だと思います。

辻本 好子 さん

辻本 好子(つじもと・よしこ)

NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長

1948年、愛知県生まれ。
1982年、医療関係の市民グループに参加。
1990年、ささえあい医療人権センターCOMLを立ち上げ、2002年にNPO法人化して以来、理事長を務める。講演や大学の非常勤講師など幅広く活動。患者視点という立場から政策にも携わる。

1
Member_bn_1

ご意見ご感想をお聞かせください ライフパレットは、みんなでつくっていく、患者コミュニティサイトです。ご意見ご感想をフォームにご入力の上送信ボタンを押してください。