医療の現場から、医師の声を伝えるということ

小鷹 昌明先生
獨協医科大学病院神経内科 医局長

嵐の松本潤が、CIDP(慢性炎症性脱髄性多発神経炎)という病気の主人公を演じていた、24時間テレビドラマ『みゅうの足パパにあげる』が記憶に残る方も少なくないだろう。

CIDPとは全国で2000人程度と推定される稀少疾患で、特定疾患(東京と埼玉のみであるが)に認定された難病の一つ。主な症状は手足の運動・感覚障害だ。その演技指導をしていたのが、獨協医科大学病院神経内科の小鷹先生。そもそものきっかけは、日頃から交流のあるCIDPサポートグループという患者会を通じての依頼。小鷹先生はCIDPサポートグループのメンバーと共同で、会員が行ったアンケート調査の結果を代表者数名と論文にして医学雑誌に掲載するなど、医者と患者という関係においていままで見られなかったような新たな試みも行っている(神経内科2008年69巻4号 科学評論社)。
『医者になって十年目で思うこと』『医者の三十代』の著者でもある小鷹先生を訪ねて、栃木へと向かった。医療現場の最前線で、日々、患者と、医療と、向き合う医師の思いとは?

自費出版してでも伝えたかったこと――病院内の意識改革のために

小鷹 昌明 先生

いまは医局長という立場ですが、それ以前に病棟医長をやっていました。病棟医長は入院患者さんのマネージメントといいますか、患者さんの入退院の調整などを行います。直接の医療行為ではなくとも誰かが担わなくてはならない大事な役割ですが、その病棟医長を2~3年もやっていると、病院のいろんな側面、システム的な問題などが見えてくる。けれども、システム的な問題というのはそう簡単には変えられません。それで、ジレンマが生じてきたわけです。

ですから、本を書いたそもそものきっかけは、病院の内部の人間に読んでもらいたいという思いでした。一般国民のみなさまというよりは、院内の意識を変えるために、
「うちの大学のこういうところはよいけれども、こういうところは改善したほうがよい」
ということを客観的なデータを交えて書こうと。そうしてできあがったのが、1冊目の『医者になって十年目で思うこと』です。

現場の声を届けること。いま、現場で何が起こっているのか

いくら医療崩壊だ、医者が大変だと言ったところで、患者さんは、‘自分一人くらい診察する体力や時間、余裕はあるだろう、言ってみればそれが医者の仕事だ’と思っていますよね。もちろんそれが悪いと言っているわけではありません。
確かにそうすることが我々医者の仕事ですし、やるべき使命だと思います。ですが、過不足なくすべての方に満足していただける医療を提供するには、やはり医者の絶対数が足りていない。医療崩壊を招いた根本にまず医師不足があることは厳然たる事実です。

そして、患者さんの権利意識。日本経済が発展して、まわりの支援がなければ享受できなかった防災や防犯といったサービスが、お金を出せば共同体に関わらなくても受けられるようになりました。また、以前では70歳以上は無料だった医療費の自己負担額が増えたこともあり、医療サービスに対する権利意識が急速に高まりました。患者にとって医療はお金で買うサービスという意識に変わっていきました。

一方、医療界には、顧客相手にサービスを提供しようという発想はそもそもありません。医療者にとって、病院はサービスを提供する場ではなく、あくまでも適切な治療を提供する場です。患者の権利意識の高まりに対して、医療者側とのギャップが広がってきています。 しかも、そうした時代背景に伴い、メディアが神の手を持つ一部の優れた医師を取り上げることにより、最高の医療サービスを受けられるというような誤解を与えたことで、仮想的医療水準が高まりました。
仮想的医療水準が法外に高くなってしまったのには、我々医療者自身にも問題があります。意外に思われるかもしれませんが、患者さん本位の医療を掲げてきたことです。患者さんのために自己を犠牲にしてがんばるのが医者だ、と漫然と言ってきました。医療界が必然的に好む‘きれいごと’です。
患者のために人生のすべてを捧げますと言う医者がもちろんいてよいのですが、医療者がそういう過大評価を自分たちでしてしまうと誤解を招きかねない。自ら首を絞めているようなものです。

また、最終的には医療制度の問題に行き着くのだと思いますが、我々医療者の見方と患者さんの見方はここでも一致しません。いまの診療報酬体系だと、患者さんを長く入院させているとどんどん医療収入が減って病院は赤字になります。そこで、何日以内に退院させなさい、という指令が下る。患者さんにしてみれば、もちろん早く家に帰りたいという方もいらっしゃいますが、まだ完全に治っていない、あるいは後遺症が残っている状況で退院してくださいと言われてもなかなか大変です。

このように医療側と患者さんの利害関係が一致していないということが、いまの医療制度の最大の問題点です。こうした医療の現実について、現場の医師が繰り返し言及することに意義があると考え、『医者になって十年目で思うこと』に続き、『医者の三十代』を世に送り出しました。

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