患者家族の心構え その1

高橋 美佐子さん
朝日新聞名古屋本社報道センター記者

「患者の家族」だからわかち合えるわけではない

「患者の家族」の視点で書くことになったいま、これほどの難題を気安く引き受けた浅はかさを悔やんでいる。家族とは、病気になる前から長い年月を費やして築かれる一種のコミュニティだ。バリエーションの幅広さは、そこにいる人間の生き様そのものであり、「模範的な患者家族像」などあり得ない。
なので、私が体験したことを一人称で語るしかない。結論など導き出せない上、まずネガティブな話から入ることをお許し願いたい。

11年前、晩秋の喫茶店。恋人が突然、がん宣告をされた私は、同僚の女性を呼び出し、すがる思いで切り出した。
「おととい、彼が病院で告知されてね。肺の多発転移で、主治医によると『薬が効かなければ半年もたない』と言われたの。本人にはまだ伝えていないのだけど……」。
彼女に打ち明けたのはその直前、父親をがんで亡くされていたから。彼女は眉をひそめ、つぶやいた。
「それは残念ねぇ。お気の毒に」。
その目に同情の色しか感じ取れなかった私は、無防備に自分の辛さをさらけ出したことを激しく後悔し、話を軌道修正した。
「いや、でも治療の選択肢は示されているのよ」。
しかし、重苦しい雰囲気は拭えなかった。がん宣告直後の彼と入籍することになった私は、数日後に「患者の家族」になることが決まっていた。夫の闘病をどう支えたらいいのか、経験者から直接聴きたかった。しかし、私に向けられたのは憐れみに満ちた他人のまなざし。「やはり、この辛さをわかってもらうなんて無理なのだ」と、さらに深い孤独を感じることになった。

実は同じ頃、もう一つ、忘れられぬ経験をした。親戚の男性が、入籍直前の私に、こう問いただした。
「抗がん剤治療は手術で切除できない人が対象。つまり治せる状態ではないという証。覚悟しているんだろうね?」。
私は困惑した。一体、何を覚悟しろというのか?すぐ隣に座る胃がん経験者の妻、つまり私のおばは、うつむき、うなだれていた。彼女のがんは、かなり早期で見つかったため、手術のみで化学療法はしていなかった。私は
「彼の主治医には治る見込みがあると説明されているのだけど……」
と必死で訴えたが、その場にいた親戚たちは皆、絶望の表情を浮かべていた。発する言葉が決して受け入れられないことを知った私は、心の底から憤りを覚え、その場を立ち去った。

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