患児の兄弟姉妹
橘 志帆さん
患児の姉
姉として、闘病中感じたこと。自分にできたこと。
私には五歳違いの弟がいました。三人きょうだいの末っ子です。弟は、高校一年生でこの世を去りました。小児がん、それも難病に類されるものでした。当時私は大学生でした。医者でもない私にできることはありません。号泣する母に慰めなど言えるはずもなく、部屋に閉じこもった弟にかける言葉も見つかりませんでした。
弟の病気がわかり、家の中は弟中心にまわるようになりました。
両親は半狂乱で治療法を探しましたが、芳しい結果は得られませんでした。治療に必死だった両親とは対照的に、弟は日常に固執しました。痛む身体を抱え、行く先々で何度も残り時間を宣告されて、辛くなかったはずはありません。
それでも弟は、重い身体を引きずって登校し、学校行事に参加しました。病気を認めたくなかったのか、思い出を残しておきたかったのか、きっと本人にもわからなかったと思います。私はといえば、基本的に両親に口を挟むことはしませんでしたが、目に余るようなら止めなければと思っていました。どうにか効果的な治療法を見つけ出そうと様々なものを試す両親の気持ちもわかるのですが、そうやって持ち込まれる非日常に弟が憔悴していることもわかったからです。多分、バランスをとろうと思ったのだと思います。
やがて、弟は遠方で入院生活を送ることになりました。この頃になると弟にも心境の変化があり、努めて病気と向き合おうとしていたようです。
そんな折、私は弟の入院先を訪ねました。見舞いに来てくれという話でしたが、実際は弟につきっきりの母に少しでも休息を、という面も大きかったです。
弟はいつだったか私が好きだと言ったキーホルダーを準備していて、「俺が買ってきた」と手渡してくれました。そして、私と弟は看護師さんの好意で一泊旅行に連れて行ってもらいました。本当は、弟の身体にとっては私への土産を買いに行くのも旅行で何時間も車に揺られるのも重労働だったはずなのです。しかし、弟は何でもないような顔をして、痛いとか辛いとかを言うことはありませんでした。当初の「病気を認めたくない」頃とはまた違う印象で、まるで私の前では「病人」ではなくただの「弟」でいようとするかのようでした。
そこで私は思いました。私には何もできないと思っていたが、特別な何かをする必要はないのではないか。私は医者でもカウンセラーでもなく、「家族」なのですから。一緒にいて、一緒に食事をして、一緒に帰る。家族として出迎え、会話を交わす。いつでも帰る場所があると思えるように。それが自分の役割なのではないか。闘病している弟は、とても孤独に見えました。実際、その通りです。痛み、辛さはどれだけ共感したくても本人にしかわからないからです。だけど、弟自身は、別世界の存在ではないのです。ずっと一緒に過ごしてきた私の弟。周囲の扱いがどう変わろうと、それを忘れないようにしようと思いました。
当時、両親にしてほしかったこと
両親に何かしてほしい、というのは特には考えませんでした。弟ばかり構って、と疎外感を抱いたりすることもなかったです。一番の原因は、私が既に大学生だったことだと思います。家が弟中心になるのは仕方がない。一番辛いのは弟だし、両親だと思っていました。ですが、振り返れば理由はそれだけではなかったように思います。
弟の治療方針が決まり、入院することになったとき、父がまずしたことは私や上の弟の奨学金の手配でした。どうやって調べたのかは知りませんが、全国から資料を取り寄せ、申請しました。弟の治療には多額の費用が必要でした。でも、父はそれを理由に私や上の弟に進路を諦めさせたくはなかったのでしょう。おかげで私は、学生のまま過ごすことができました。
母はといえば、成人式に行かなかった私に、どうしてもと振り袖を着せました。写真館などで企画している、一万円くらいのレンタルのものです。当時弟は入院生活を続けていて、母はずっとそれに付き添っていました。私の成人どころではないのはよく知っていたので、私は「わざわざそんなことしに帰ってこなくてもいいのに……」と思いつつも結局フレームに収まりました。
これは一例ですが、そうやって余裕がない中でもできる範囲で気にかけてもらえていると感じることは、無意識に支えになっていた気がします。
いま、小児がんのお子様を持つご両親に伝えたいこと
闘病中、ご両親に余裕があることはほとんどないと思います。だからこそ、きょうだいにもきちんと告知をしてほしいです。もちろん、本人とは別の機会に。
病気の本人が嫌がるなら仕方ないですが、その場合は病気の苦しさや治療の辛さなどを伝えてあげてほしいです。無理強いすると逆効果になる可能性もあるから一概には言えませんが、できれば、闘病を見せてあげてほしい。きょうだいも、さまざまな感情を抱いています。実際に看病を手伝うことができなくても、多少なりとも家族で経験や感情を共有できれば、ご両親にとってもきょうだいにとっても随分楽になるように思います。
最後に
今回、患児のきょうだいとして文章を書かないかとお誘いを受け、悩みました。
自分の環境がすべての人に当てはまるとは思えません。私は当時成人間近でした。親が知りたいきょうだいの心情としては、思春期やもっと幼い頃が主なんじゃないかとも思いました。私の体験が果たして参考になるんだろうか、と。悩んでいるうちにわからなくなってきたので、そのまま書きました。あくまでも一例として捉えていただければと思っています。家族の形もきょうだいの関係も、同じものはないでしょうから……。どこか一部分でも参考になりましたら幸いです。
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- ┗ 父親の膵臓がんをきっかけに、親孝行を考える、著者の心境を描いた作品。
















