【THE仕事人】古賀 真美さん
血液がんの患者支援を勉強する会 『Patient Advocate Liaison (PAL)』代表
弟Shinさんが急性リンパ性白血病に冒されたのは、2002年。
青天の霹靂(へきれき)というが、まさにその心境。
移植を余儀なくされたShinさんの、姉として、ドナーとして、ともに闘病した体験が、古賀さんを患者支援活動へと導いた―――
自分たちの経験を提供したい!
白血病の治療のひとつである造血幹細胞移植が必要となったShinさん。
骨髄バンクに登録したもののドナーが見つからず、最終的にはミスマッチである古賀さんをドナーとして臨床試験による移植を選択した。
治療が難しいタイプといわれる中で挑んだ移植は無事に成功した。
移植を終え、落ち着いてきた頃、古賀さんはShinさんと共に『ShinのCampath(白血病闘病記&ドナー体験記)』というサイトを立ち上げる。
恐らく初の患者本人とドナーによるサイトだったのではないだろうか。
それだけ白血病の情報が少ないことの表れでもあるが、予想をはるかに超えるアクセスに驚いた。
Shinさんには患者当人から、古賀さんには家族から、また男性特有の相談はShinさん、女性特有の相談は古賀さんというように様々な相談を受けた。
直接会いたいという人には直接会いに行き、電話で話したいという人とは電話で話した。
サイトを通じてやりとりをしたメールは4000通を超える。そのすべてに返事をしたが、内容の重さに唸った。
「弟のケースしか語れないし、相談者にとって望ましい話ばかりできるわけでもない。
それはある意味無責任なのでは? 支援する気持ちはあっても、本当に私にできることがあるのか? 」。
そこで、古賀さんは臨床心理カウンセラーとがん情報ナビゲーターの資格を取った。
がんに関する幅広い知識を得るとともに、患者さんや家族の心理を客観的に捉える術を身に付けることが必要と考えたからだ。
患者さんにとって的確な支援のためにできる限りのことをする。
でも自分も無理をしない。これが古賀さんのスタイル。
そして、当事者や家族、遺族、医療者、いろんな目線で知恵を出し合って、少しでもよい患者支援のかたちを見つけられたらと、古賀さんは支援活動をする中で出会った仲間たちと血液がんの患者支援を勉強する会PALを立ち上げた。
ShinのCampath(白血病闘病記&ドナー体験記)
http://www11.ocn.ne.jp/~shin0219/index.html
血液がんの患者支援を勉強する会「PAL」の挑戦
PALの主な活動のひとつが、PAL勉強会。
がん医療を取り巻く人々を講師に呼び、メンバーとともに学ぶ。
講師から一方的に講義を受けるというのではなく、質問を投げかけ、双方からのコミュニケーションで成り立っているのがPAL勉強会の特色だろう。
実際の支援活動としては、Shinさんの主治医の協力を得て、「私の治療ダイアリー」の作成に携わった。
血液がんは血液のデータが重要な判断材料になるため、記録を付けることが患者にとって役に立つ。
PALは患者の視点からダイアリーの原稿をチェックした。
ライターが書いた原稿は、PALのメンバーたちのチェックで真っ赤。
経験者だからこそのリアルな感覚から、細かなアドバイスが出てくる。
こうして完成した「私の治療ダイアリー」には、化学療法編と移植編の2種類があり、サイトからもダウンロードすることができる。
希望者には送付することも可能だ。
「私の治療ダイアリー」について
http://www11.ocn.ne.jp/~shin0219/pal-shiryou.htm
誰に聞けばよいの? セクシュアリティのこと
サイトに寄せられるメールを中心に相談を受けている中で、古賀さんがずっと気にかかっていたことのひとつにセクシュアリティ(性)の問題がある。
特に若い女性が血液のがんになると不妊の問題は避けて通れない。
不妊になるということは単に出産ができない、妊娠ができないということではなく、恋愛にも消極的になってしまう。
恋人ができれば病気のことも不妊のことも話さなくてはならないのではないかと悩み、人を好きになること自体にブレーキをかけるようになる。
たとえ病気が治って恋人ができたとしても、悩みは尽きない。
「彼を受け入れることができない。セックスで感じられない。これは治療のせいなのだろうか? 先生にも聞けない・・・彼にも申し訳ないが、誰にどう相談してよいかもわからない」と赤裸々に綴ってきてくれたメールもある。
一方、パートナーはパートナーで悩んでいる。
白血病を発症した妻は退院し、自宅で元気そうに過ごしているが、では、いつから性生活を始められるのか?
妻にも聞けない。
そんなメールもあった。
古賀さんにメールを送るだけでも勇気がいること。
まだまだ誰にも言えずに性の問題を抱え込んでいる人たちは少なくないと考えられる。
そこで、セクシュアリティについて研究しているナースと医師へ協力を求め、不妊や性生活などのセクシュアリティに関する小冊子「化学療法を受ける大切なあなたへ そしてあなたの大切な人へ」を作った。
セクシュアリティの問題に触れづらい、医療者にとっても助けとなる一冊だ。
希望者へは治療ダイアリー同様PALからの送付も行っている。
子どもにもきちんと伝えたい、パパやママの病気のこと
古賀さんの、PALの次なる挑戦が、子どもたちに病気のことをどうやって伝えるか。
そもそもは、二人の小さな子どもを抱えて妻を白血病で亡くした男性からの、「子どもたちはママが亡くなったということをどう理解しているのだろう? 」という相談がきっかけ。
日本では親が病気で入院している子どもへ「おりこうさんにしていたら、きっと帰ってくるよ」という言い方をすることがあるが、そのまま残念な結果になってしまった時「僕がおりこうさんにしていなかったから、いなくなっちゃったんだ」と、幼心に傷を抱え込んでしまうのではないか。
大人が子どものことを思って何気なく発する善意が子どもを深く傷付けることは大いにありうる。
「相手が子どもだろうと病気のことはきちんと伝えてほしい。病気になってしまったのは誰のせいでもないこと、そして、医療者と一緒に治す努力をしていることを伝えることが大切。
もし、家庭で行うことが難しければ違ったかたちのサポートが必要だし、さらには家庭に気付かせてあげるためのツールが必要」と古賀さん。
いま、PALのサイト上では、M.D.アンダーソン・キャンサー・センターの許可を得て、子どもの年齢別にどんなふうに伝えればよいのかが書かれた小冊子の翻訳を掲載している。
いずれは紙の小冊子にしたいと考えているが、まずはできることからかたちにしていくのがPALだ。
When You Don’t Know What to Say...
がんについて子どもにどう話せはよいかわからない親のために
http://www11.ocn.ne.jp/~shin0219/pal-mdacc-pamphlet.html
“つまづきそうな石があったら、拾いなさい”
「歩いていて、つまづきそうな石があったら拾いなさい。 あなたが石を拾っても、あとから来た人は石があったことに気付きもしなければ、まして感謝することもないだろう。 それでも石を拾うことが先を歩く人の務め。」
いつもことあるごとに思い出すのが、一番つらい時期にふと目にした新聞のコラムにあったこの言葉だ。
古賀さんが初めて拾った‘つまづきの石’は血縁者のための末梢血ドナー保険。
移植に使われる造血幹細胞の採取には、骨髄からの採取と末梢血からの採取があるが、骨髄バンクに登録する非血縁者には骨髄採取しか行われない。
つまり、末梢血からの採取は血縁者のみに限られる。
末梢血から採取をする時に注射する造血剤の副作用などの影響がわかっていないことがその理由だ。
当時、ドナー保険が適用になるのは骨髄採取のみで、末梢血採取に踏み切る血縁ドナーには保険が適用されなかった。
この事実を知り、納得の行かない思いを抱いた古賀さんは要望書を書いて直接保険会社へ足を運んだ。
社会的意義を認めてくれた担当者の協力の下、末梢血採取を選んだ血縁ドナーのための保険ができた。
この保険には日本造血細胞移植学会を通して入ることができるが、きっかけをつくったのが古賀さんといえるだろう。
自分にたくさんの情報を寄せてくれた人たち、たくさんの支援をくれた人たちへの恩返しがしたいという思いが古賀さんをここまで導いてきた。 患者サポートでなにかしらをしていくことが自身の役割なのだと思えるからこそ、どんなにつらくても続けてくることができた。
これからも歩んでいく先に転がる石を、古賀さんはそっと拾い続けるのだろう。
















