第4回■「糖尿病」の合併症■

医学博士 岩岡 秀明
船橋市立医療センター 代謝内科部長

糖尿病の合併症

糖尿病の合併症には、急激に現れる急性合併症と、徐々に発症する慢性合併症があります。

急性合併症

  1. 高血糖性昏睡(ケトアシドーシス性昏睡)
    1型糖尿病を発症したとき、他の感染症に罹患したとき、インスリン療法を中断したとき、暴飲暴食をしたときなどで、極度にインスリンが不足すると、エネルギー源として糖質を利用できなくなります。その代わりに体内に貯えられた脂肪やたんぱく質を分解して使うようになります。

    その途中血液中に「ケトン体」という酸性の物質が生じます。ケトン体は血液中に大量に蓄積されます。その結果、血液は極端な酸性になります。この状態を「ケトアシドーシス」といいます。

    ケトアシドーシスになると、血液中の酸素の利用が低下するため、さまざまな臓器の働きが低下すると同時に、脳細胞への酸素供給も低下して、意識がもうろうとし、昏睡状態になってしまいます。治療が遅れると、生命が危険となる緊急事態です。ただちに、生理食塩液の点滴とインスリンの持続静脈注射が必要となります。

  2. 低血糖性昏睡
    インスリン注射や血糖降下薬を使用している方が、インスリンの打ち方や量、また薬の飲み方を間違えたり、激しい運動をしたり、他の疾患で食事がとれなかったりすると、血糖値が低下して低血糖性昏睡に陥ることがあります。

    通常69mg/dL以下の血糖値低血糖と呼びます。患者さんご自身およびご家族も、低血糖の症状(気分不快、ふるえ、冷汗、動悸など)と対処法(ブドウ糖の摂取)についての十分な知識が重要です。

慢性合併症

慢性合併症を誘発する最大の要因は、長期間にわたって高血糖状態を放置することです。また、合併症の多くは自覚症状がないまま進行し、気がついたときには病状はかなり進行しています。

特に侵されやすいのは、神経と血管を中心とした臓器で、「神経障害」「眼底の網膜が障害される網膜症」「腎臓の機能が低下する腎症」の3つが起こりやすく、これらを「三大合併症」と呼んでいます。

  1. 神経障害
    高血糖状態が続くと、まず末梢神経に異常が起こり、早い段階から、足先がしびれたり痛みを感じたりします。末梢神経障害は、糖尿病の患者さんにもっとも多い合併症です。
    症状がさらに悪化すると、障害は自律神経にも及び、めまい、立ちくらみ、生理不順、排尿障害、勃起不全、便秘・下痢、発汗異常など多彩な症状が現れます。

  2. 網膜症
    糖尿病による網膜症は、成人の失明原因の第2位で、年間約4,000人が糖尿病により光を失っています。

    症状は、視力が落ちる、物がゆがんで見える、日の前にヒモや点が見える、視野が欠けるなどですが、高度の視覚障害にいたる直前まで症状がないことも少なくありません。

    糖尿病の患者さんは、症状がなくとも必ず定期的な眼科受診が必要です。

  3. 腎症
    高血糖状態が長期間続くと、腎臓の糸球体にも異常が起き、ろ過機能が低下して、尿に蛋白が出るようになります。

    病状がさらに悪化すると、蛋白尿が大量に出て、腎機能が著しく低下し、腎不全となります。

    腎不全になると、だるい、疲れる、足がむくむ、貧血になる、吐き気がする、息苦しいなどの症状が現れますが、これらの症状が現れたときには、腎機能はかなり低下しています。人工透析を受けないと生命を維持できない状態も近いといえます。

    年間約14,000人が、糖尿病による腎症が原因で人工透析を受けるようになっていて、人工透析が必要になる原因疾患の第1位を占めています。

  4. 大血管障害
    糖尿病があると動脈硬化が進みやすく、心筋梗塞脳梗塞の危険性が高くなります。また足の血管も閉塞しやすくなり閉塞性動脈硬化症をおこしやすくなります。
    その他、感染症にかかりやすい、虫歯や歯周病になりやすい、がんの発症が増える、認知症が増えるなど、糖尿病は全身のいたるところに悪影響を及ぼします。
    まさに、「糖尿病は万病の元」と言われるゆえんです。

本稿の内容は、「よくみる病気がわかる本」(岩岡秀明他編著、照林社 2006年)の「糖尿病」から転載し、一部加筆修正しました。

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1型糖尿病、2型糖尿病の特徴について
第3回■糖尿病の診断とコントロールや数値の指標■へ
糖尿病の診断・指標について
第5回■「糖尿病」の治療■へ
食事療法、運動療法、薬による治療について

岩岡 秀明 先生

岩岡 秀明(いわおか・ひであき)

船橋市立医療センター 代謝内科部長
医学博士

1981年 千葉大学医学部卒業
日本内科学会総合内科専門医・指導医
日本糖尿病学会専門医・指導医
日本内分泌学会内分泌代謝専門医
千葉大学医学部臨床教授

【編著書(共同)】
「ここが知りたい! 糖尿病診療ハンドブック(2012年 中外医学社)」
「オールカラー 生活習慣病に視点をおいたよくみる病気がわかる本」

【執筆記事】
日経メディカル2013年4月号「著者に聞く」(転載)
「糖尿病治療薬の選択のコツを詳述、非専門医向けの実践マニュアル」

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